東京生れの東京育ちのわたしにふるさとは、ない。もちろん、東京がふるさとといえなくもないのだが。
結婚して、福井が第二のふるさとになってからすでに何年もの歳月が流れている。旅を生業とするわたしは、計算上今までにのべ2000回もの旅に出ていることになる。数えきれないほどの家族旅行や友人との旅をくわえたらその数はもっと大きいものになる。いままでに訪ねたたくさんのなかで、とくに好きになった街を「心のふるさと」と呼ぶことにしている。亡くなった父によくつれて行ってもらった箱根、熱海、伊東、伊豆高原もそのなかのひとつにはいっている。
そして縁あって「ふるさと大使」に任命いただいた長野県飯島町も「心のふるさと」にくわわった。飯島町の最大の魅力は、手つかずのありのままの自然な風景の広がりとそこに住む方々の純朴なお人柄だろう。決して旅人に媚びたりしない。たくさんの資金をかけての無理な観光地化を行わない。そんなことよりそこに住む人々が、安心安全に暮らせるように。そして旅人をもてなす「気くばり」「心くばり」をこどもたちが自然に会得できるような「人づくり」に重きをおいている。つねづね申し上げている「町づくりは人づくりから」ということを実践している町なのである。人口1万ちょっとの決して大きい町とはいえない飯島町だがその結束力とみなぎる自信と誇りは、暮らすように旅をする人が増えている昨今の旅の傾向にマッチしているのではないだろうか。そんな飯島町は、これから脚光をあびるにちがいない。
「心のふるさと・いいじま」に行くたびに優しい声で
「お帰りなさい」とみんなが言ってくれる。
できそうでできないことである。
津田令子
ラベル:旅の香り