中学生の頃に、たまたまテレビで放映された
「SOSタイタニック」(原題 A NIGHT TO REMEMBER 1958,英)という映画を見て、僕は初めてこの船のことを知りました。
少年だった僕の目から見ても、
絶対に沈むことはないとされたこの巨大豪華客船が、その不沈神話とともに初めての航海に大西洋へ乗り出し、ニューヨークへと向かう北大西洋上で氷山と衝突・・・星降る空の下、多くの乗客たちとともに氷海へと消えていったという物語は、自分が生まれる遥か昔の出来事とはいえ、あまりに劇的過ぎる運命的な船と人々、そして人類の物語に感じられ、僕はタイタニック号のことをもっと知りたくなり、当時はもっと数の多かったなじみの書店を数件ハシゴして、一冊の本を見つけました。旺文社の分厚い文庫本・・・それが、題名もずばり
「SOSタイタニック」(ジャック ウィノカー編集)という本でした。タイタニックに乗船し、あの運命的な夜(1912年4月14〜15日)に遭遇しながらも、辛うじて救助された人々が綴った迫真の手記を編集したもので、単なる体験談のみに留まらず、生存者としてあの事故を振り返り、不沈船と云われたタイタニックがなぜ沈むに至ったのか?についての詳細な検証と、それらを教訓として二度と同様な悲劇が起こり得ないようにするために、技術的なことだけでなく法律的にも整備すべきと思える幾つもの点を指摘した提言までをも含んだ分厚い本でしたが、僕は夢中でその本を読んだのでした。
ふたつの「SOSタイタニック」・・・最初に見た映画もその後に読んだ本も、双方とも極めてドキュメンタリー的な感覚であの世紀の海難事故の詳細を振り返るものだったことから、1997にジェームズ・キャメロン監督、レオナルド・ディカプリオ、ケイト・ウィンスレット主演で公開された映画「タイタニック」を見た時の印象は、あの夜にあの船に乗っていた実在の人物たちを周りに配し、ジャックとローズという架空の男女の悲運のラブストーリーを描いたものという印象が強く、極めてエモーショナルな大作映画なのだけど、初めてタイタニック号のことを知ることになった「SOSタイタニック」を見た時ほどの心揺さぶる印象には及ばなかったのが僕の最初の感想でした。
しかしよく考えてみると、1513人もの犠牲者を出してしまった事故・・・その
ひとりひとりに人生があったことを思えば、ジャックとローズのような若い男女もきっと幾人もあの船には乗っていたはずで、命を落として海に消えていった犠牲者の数の方が生存者のそれを上回るような悲劇であったことをからすれば、もしかしたら其処には、今では
知られることもない幾組ものジャック&ローズがいたのではないか?・・・映画館で「タイタニック」を見て、後にDVDの発売とともにもう一度見た頃には、きっとそうだったに違いない・・・と思えるようになり、あのジャックとローズが、
あの夜に終わりを迎えてしまったかもしれない幾組もの悲劇のカップルを象徴するふたりのようにも思えてきたのでした。
そこでこのニュースです。英国のとある民家の屋根裏から発見された、ひとつの古い古いヴァイオリン、それはあの夜に、沈みゆくタイタニック号の上で演奏されたものであるといいます。
「ウォレスへ、婚約を記念して マリアより」・・・と銘打たれた銀製の飾り板、そしてあの悲劇の夜に絶たれ、別たれたふたり・・・。ウォレスとマリアのふたりは婚約中で、そのヴァイオリンは婚約の記念としてマリアからウォレスに贈られたものだったのだといいます。氷山の衝突からわずか2時間40分で沈んでしまったタイタニック号の悲劇の現場、凍える海の上で、救命ボートの絶対数そのものが全く足りていない緊迫した中で船外退避を指揮する航海士たちにより、一等船客の女性と子供を複数の男性船客よりも優先して救命ボートに乗せるという方針がとられたという事実も思い起こせば、愛し合い将来を誓い合った若い男女とはいえ、ひとりが助かり、ひとりが命を落とす・・・というような現実が実際には幾つも起きていたのかもしれない・・・ということは、容易に想像がつきます。このニュースに接して、映画の中のジャックとローズが、僕にはこれまでよりもさらに現実の血の通った温もりを帯びた存在として感じられました。
これまでも多くの人々が語り、また、タイタニックのことを考える時に誰もが思うことなのでしょうが、ある出来事とが100年を超えて語り継がれるようになるということ・・・其処には、個人の生涯を超えた人間の歴史と未来全体に渡る意味合いが含まれているように感じます。100年前の北大西洋上での出来事・・・その現実のストーリーは今でもその事実にふれる人にある種の緊迫感を抱かせます。
絶対に沈まないはずの船は、英国のサウサンプトンから初めての航海へと船出し、目的のニューヨークにたどり着けないまま氷点下の海へと消えていきました。犠牲となって命を落とした多くの人たちからすれば、100年を経た今も新大陸アメリカの港は見果てぬ夢のまた夢となったままです。あの透き通るような星降る穏やかな夜、氷点下の海に投げ出され、夢を絶たれたジャックとローズのような若者たちは果たしてどれほどの数に昇ったのでしょう?
「絶対」という言葉の不確かさ・・・人間の業績にこの言葉を付されて語られ、それを目にする時、耳にする時、極めて明快で信頼性の高さを滲ましながら感じられるこの表現には、それを発する
人間の驕りを伴っていることが、歴史の中には幾度も繰り返されてきたのだということ、僕らは思い起こすべきなのかもしれません。
ローズのことを気遣い、氷海に消えていったジャック・・・救助されて命を長らえながらも、その後いつまでも独身を貫いて生きたローズ・・・奇しくも、このほど発見されたヴァイオリンをタイタニックの沈没と共に死んでしまったウォレスにプレゼントしたマリアも、1939年に亡くなるまで生涯独身を貫いたのだそうです。下記にURLをリンクした曲は、1997年版の映画「タイタニック」のテーマとしてセリーヌ・ディオンによって歌われた
My Heart will go onを、
Neal Schonがギターインストルメンタルとしてリリースしたものです。
posted by フランキン at 00:27| 静岡 ☀|
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